福祉用具レンタル業界の今後の時流と業界展望とは?

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福祉用具業界の今後はどうなる?

◎みなさまこんにちは。
船井総合研究所の入江貴司です。
3月6日は船井総合研究所の創業記念日です。1970年に創業(当時は日本マーケティングセンター)しましたので、52年が経過したことになります。
創業者である故・舩井幸雄氏は「経営者とは時流適応業である」といいました。時流を読み、時流に適応していくことがいかに重要かをつとに語っていました。
今回のコラムでは、福祉用具レンタル業の時流と業界展望についてというテーマで、みなさまと一緒に貸与事業所の未来について考えてみたいと思います。

≪本記事の要点をまとめると…≫

【ポイント1】業界の長期トレンドから福祉用具の時流を見る

【ポイント2】福祉用具レンタル業の事業環境を見る

【ポイント3】福祉用具貸与事業所のこれからの方向性は?

◆ポイント1:業界の長期トレンドから福祉用具の時流を見る

まずは業界と長期トレンドということで、2002年度から2019年度までの福祉用具貸与の費用額のデータを追ってみたいと思います。

2002年度 1039億円
2003年度 1414億円
2004年度 1687億円
2005年度 1843億円
2006年度 1565億円
2007年度 1599億円
2008年度 1738億円
2009年度 1880億円
2010年度 2038億円
2011年度 2200億円
2012年度 2373億円
2013年度 2538億円
2014年度 2710億円
2015年度 2886億円
2016年度 3039億円
2017年度 3207億円
2018年度 3351億円
2019年度 3494億円

2002年度には1000億円強だった費用額(≒市場規模)が、2019年には3500億円と3倍以上に成長しています。
高齢者数・要介護者数の増加によって今後も成長は続くと考えられ、まさに「昇りのエスカレーター」といった業界といえるでしょう。

そんな成長トレンドですが、細かく見てみるといくつかのポイントを抽出することができます。
1)2006年のベッド・車いす軽度者貸しはがし:市場縮小
最も大きな変化は、2006年の制度変更によるものでしょう。この時にベッド・車いすは原則要介護2以上の利用者に限るものとされました。
これによって2005年度:1843億円⇒2006年度:1565億円と約15%の市場縮小が生じています。

2)2000年~2006年度:急成長期
先の軽度者貸しはがしの前は、非常に高い成長率で市場が伸びていた時期になります。
年率で10%近く市場が成長しており、まさに成長期まっただ中といった状態でした。

3)2008年度~2014年度:再成長期
軽度者貸しはがしによる市場ショックの後、業界は再び成長期に入ります。
だいたい2014年度くらいまでは年率7~8%の成長率で市場が伸びている時期となっていました。

4)2015年度以降:成長率鈍化
2015年度以降は成長率が鈍化し、直近では年率5%を割り込む成長率となっています。
業界としては、成長期を越えて成熟期に移っていっているとみるべきだと思います。
ただし、まだまだ成長のピークとなる転換点は超えていないため、「成熟期前期」とみるのが客観的に妥当性が高いのではないかと思います。

また、こうした市場トレンドの一方で、介護保険の報酬改定によっていくつかのトピックも見られます。
2011年度:個別サービス計画書 作成義務
2017年度:複数提案義務・複数選定書類義務化
2018年度:福祉用具上限価格の設定(第一次)
2021年度:福祉用具上限価格の設定(第二次)

2006年ほどの大きなショックではありませんが、ことあるごとに業務が増え、書類が増え、価格設定が抑えられといった制約が強くなっていっています。

業界の長期トレンドから見た時流をいったんまとめると、
1.福祉用具レンタル業界の市場規模(福祉用具貸与の費用額)はおよそ3500億円である
2.市場規模はこの10年で一貫して伸びている。ただし成長率は鈍化しており年率8%⇒5%弱の成長率となっている
3.2006年のベッド・車いす軽度者貸しはがしの際には、前年度1843億円⇒1565億円へと約15%の市場縮小がみられた
4.その後は個別サービス計画書の作成義務、複数提案書類の作成義務、福祉用具上限価格の設定など、価格に制限がかかったり事務処理が煩雑になるなど事業運営に逆風が続く
5.業界は「成熟期前期」で市場は成長しているものの、制度改正の影響を強く受ける事業環境である

ざっくり概観すると、このような業界であると捉えることができるのではないでしょうか。

◆ポイント2:福祉用具レンタル業の事業環境を見る

次に、もう少し異なる視点でも福祉用具レンタル業の事業環境を見てみたいと思います。
先のポイント1と重なる部分もありますが、事業環境としては次のようなことが挙げられると思います。

1)今後の人口推計と市場成長

福祉用具レンタル市場の市場規模は約3500億円。
将来人口推計より2040年まで高齢者数の増加予測であり、今後年率4~6%の市場成長が見込まれている。

2)労働集約型ビジネス 人材不足&採用難

労働集約型ビジネスであり、業績の成否を人の質に依存する属人性の高いビジネス。
一方で、人材不足、採用難の環境におかれている。

3)介護保険制度に守られ、また制度の影響を強く受ける

介護保険制度に守られている一方で、制度改正の影響を大きく受ける。
特に2024年度改正は杖・手すり・歩行器のレンタル外しが大きな脅威。

こうした事業環境の福祉用具レンタル業ですが、外部環境・内部環境をそれぞれ整理してみると、
<外部環境>
・市場が成長しているのは何よりのプラス、昇りのエスカレーターに乗れるのは本当に大きい
・介護保険制度に守られているのも大きなプラス要因、費用負担1割で提案できるのは受注の難易度が極端に低い
・制度ビジネスであることによるリスクがあるのは否定できない

<内部環境>
・成長できるかどうかはそれぞれの会社次第、やり方によって大きく異なる
・属人的な体質から脱して会社としての仕組みで伸ばすことができるところは展開力が強い
・労働集約型である分、業務プロセスの組み立て次第で生産性に大きく差が生じる

同じ業界に属している以上、外部環境・内部環境ともどの会社にとっても同じようなものだと思います。
つまりは、所与の条件のもとでいかに環境適合して、上手なやり方を見つけていった会社がより大きな成長・利益を手にするということです。
この「格差」ともいうべき違いはこれからもっと大きくなっていき、次のような2つの会社に二極分化していくことでしょう。

【自ら変革を起こし、新しいタイプの成長企業として注目される企業】
・人に依存しないビジネスモデル
・高成長・高収益
・積極的に新卒採用

【変化を好まず従来の延長線上で、徐々に衰退していく企業】
・旧来型ビジネス形態
・人の出来・不出来に業績を依存する
・低投資・低成長

みなさんはこの「同じ事業環境」のなかで、どちらのタイプの企業を志向しますか?

◆ポイント3:福祉用具貸与事業所のこれからの方向性は?

福祉用具貸与事業所のこれからの方向性として、次の2つを挙げさせていただきたいと思います。

方向性①:成長していくためにステージによって適切に手を打つ
方向性②:生産性を上げるための分業化×デジタル化

まずは方向性①:成長していくためにステージによって適切に手を打つ
ステージというのは利用者規模によっての会社の段階と捉えていただければと思います。

<利用者数~500名 レンジ>
経営課題としては、次のようなことが挙げられます。
・利用者数が損益分岐点まで達しておらず黒字体質になり切っていない
・新規獲得力が弱く、利用者数が伸びない
・営業成果を人の質に依存する属人的な体質を抱えている

こうした課題を解決し、ステージアップを図るための打ち手は、
・新規獲得力をつけ、利用者数を伸ばし損益ラインを超えて稼ぐ力をつける
・住宅改修を強化し、差別化の武器をつくる
・住宅改修のスポット粗利を付加する

<利用者数500名~1000名レンジ>
経営課題としては、次のようなことが挙げられます。
・損益分岐点は超えているものの、業務量の増加とともに社員の増員を図ると固定費が増え、損益ラインを割り込む
・新規獲得は属人的な体質を引きずり、仕組み化されていない

こうした課題を解決し、ステージアップを図るための打ち手は、
・利用者獲得数10件以上に向けた営業・サポートの仕組みづくり
・利益率向上のためにレンタル粗利の見直しを進める
・住宅改修の件数・単価アップ

<利用者数1000名~ レンジ>
経営課題としては、次のようなことが挙げられます。
・収益力が上がっており安定して利益を生む体質となる
・さらに利益率を上げるための施策、また介護保険制度のリスクに備えて保険外の領域を開発していくことが課題となる

こうした課題を解決し、ステージアップを図るための打ち手は、
・さらに利益率を上げるための高回転自社レンタルの導入
・自費リフォーム(お風呂・トイレ)の追加提案、受注
・施設向け新規事業分野の開拓

次に、方向性②:生産性を上げるための分業化×デジタル化
この業界の生産性は改善の余地だらけ、言葉を選ばずに言うとめちゃくちゃ生産性が低いです。
先ほどから何度も出ている属人的ということに加えて、人手不足であり、長時間労働であり、低賃金業種であります。
そのように福祉用具貸与事業所の生産性が低い、その根本の原因はどこにあるのか?

私は「営業がマルチタスクであること」がそれら低生産性要素の元凶となっていると考えています。
営業がマルチタスクであるがゆえに、営業はあれもこれも、なんでもかんでもやらないといけない。
だから、
・その人しかできない仕事 がたくさんあって、
・マルチタスクを処理できる人は限られている から常に人手不足で、
・多岐にわたる仕事をすぐに覚えられない から人材育成が難しくて
・いろんな仕事を処理しなければならない から長時間労働で、
・営業が営業に集中できず営業成果が上がらない からいつまでも低賃金のまま

というような堂々巡りが繰り広げられているのだと考えています。
これを解決していくには、ごくごくシンプルに考えて、
【営業は営業にしかできないことをやる】
【バック業務は非営業に分業する】
ということだと思います。

営業にしかできないことというのは、居宅・包括のケアマネへの訪問営業であり、利用者の(とくに初回)訪問&提案です。
ここに時間とパワーを集中させ、最高のパフォーマンスができるようにしていくのが営業としての最優先事項といえるでしょう。

またバック業務については、非営業スタッフ(パート・在宅ワーカーもアリ)にどんどん任せていくのですが、考え方としては「素人」でもできるくらい業務の標準化・マニュアル化をしていくことでしょう。
その際、デジタルツールをフル活用し、同時にペーパレス化を図っていくことも必須となるでしょう。

ざっとまとめると、利用者数でのステージ別に適切に手を打って事業所としての成長を図ること。
それと並行して分業化×デジタル化で業務の変革に取り組み生産性を上げていくこと。
これらが、今後の福祉用具貸与事業所の志向する方向性であると私は考えます。

さて、福祉用具業界の時流と業界展望というテーマでお送りしてきましたが、いかがだったでしょうか。
みなさまの会社経営・事業所運営にとって、これからのプランづくりに対してヒントになりましたら幸いです。

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■ 執筆者紹介
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株式会社 船井総合研究所
リフォーム支援部
チーフ経営コンサルタント
入江 貴司

【プロフィール】
シニア向けビジネスの立ち上げを専門に手がけるなかで、福祉用具レンタルと
シニアリフォームを掛け合わせた「セット提案モデル」を開発し業界に対する
専門コンサルティングを進める。
商圏内一番事業所に向けた戦略づくり、マーケティング・営業支援、組織体制
づくりなど業界企業のビジネスモデル化を強力に推進する。

⇒ 入江 貴司 への経営相談は、コチラまで
E-Mail:takashi_irie@funaisoken.co.jp

この記事を書いたコンサルタント
入江 貴司
入江 貴司
入江 貴司

1976年大阪府生まれ。
大阪大学経済学部卒業後、大手工作機械メーカーに入社。
シニア向けビジネスの立ち上げを専門に手がけるなかで、福祉用具レンタルとシニアリフォームを掛け合わせた「セット提案モデル」を開発し業界に対する専門コンサルティングを進める。商圏内一番事業所に向けた戦略づくり、マーケティング・営業支援、組織体制づくりなど業界企業のビジネスモデル化を強力に推進する。

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