福祉用具レンタル業 どうなる!?貸与と販売の選択制は導入されるのか?

杖など福祉用具、貸与と販売の選択制へ 厚労省調整(日本経済新聞)

8月のある日、こんなニュースが飛び込んできました。

「あれ?2024年の改正は大したものにならないんじゃなかったっけ?」

てっきりそう思っていたところ、寝耳に水のような一報に驚かされました。

記事によると「杖などの福祉用具について貸与と販売の選択制を導入する方向で調整を始めた。対象となる福祉用具は杖のほか、歩行器、手すり、スロープの4種類」とのこと。
あれあれ?杖は半ば覚悟していたけど、手すりとか歩行器も対象になるの???

今回のコラムでは、みなさまが気になる貸与と販売の選択制について、

介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会

の資料をトレースしながら、その議論の行方を概説してまいりたいと思います。

ポイント1:選択制の導入は本格的な検討段階に入った!

厚生労働省では社会保障審議会(介護給付費分科会)という会議が定期的に開催されています。
みなさまもよくご存じの通り、日本の財政状況は悪化の一途をたどっているところ、そのなかでも社会保障に関する負担増はますます大きくなっています。
介護給付費の膨大に歯止めをかける一方で、適正なサービスは維持しないといけないから、それに関して有識者で議論していきましょうという会議なんだと思います。

いろいろな介護サービスがあるなかで、7月24日には【福祉用具・住宅改修】についての協議もなされました。
これまでの議論の整理と今後の論点をあらためて確認するという内容がその資料から読み取れます。

それを受けて厚生労働省 老健局が実施している検討会「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」が8月28日に開催され、冒頭のニュースが発信されたという流れになっています。

社会保障審議会(介護給付費分科会)
の資料を見ていくと、次のような論点の整理・確認がされています。

(以下引用)
〇福祉用具貸与・特定福祉用具販売の現状と課題を踏まえたあり方については、検討会における意見を踏まえ、「これまでの議論の整理」としてとりまとめを行ったところ。
一部の貸与種目において福祉用具貸与・特定福祉用具販売の選択が可能かどうかについて、「これまでの議論の整理」に関連するデータ等を踏まえ、更に検討を進めることが必要
出典:第220回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料(厚生労働省)

これまでは福祉用具等といっても「例:歩行補助つえ、スロープ等」という表現となっており、

「まあ、杖は貸与から外れてしまうか、、、スロープもかなぁ」

という捉え方だったところでしたが「更に検討を進めることが必要」ということで、貸与と販売の選択制についてさらに踏み込んで議論がなされるようになりました。

そんな背景のなかで、

介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会

の資料を見てみましょう。

(以下引用)
○貸与を基本としつつも、これまで積み重ねてきた介護保険制度における福祉用具貸与の利用実態や、これまでの検討会のご意見を踏まえ、販売価格が比較的廉価であり、購入することで利用者の自己負担が過度とならないことや保険給付の適正化が図られる可能性のある種目・種類について、本人の身体状況や意向に基づき、貸与と販売の選択が可能となる仕組みの導入に向けた検討をお願いしたい。
出典:第8回介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会に関する資料(厚生労働省)

貸与と販売の選択が可能となる仕組みの導入に向けた検討
が本格的に進んでいく段階に入ってきたようです。

その上で、貸与と販売の選択制を導入するにあたっての論点の整理が以下のようになされています。

(以下引用)
〇選択制の導入を検討するにあたり、これまでの検討会等の意見を踏まえ以下の通り論点を整理した。
(1)選択制の対象とする種目・種類
(2)選択制の対象者の判断と判断体制・プロセス
(3)貸与又は販売後のモニタリングやメンテナンス等のあり方
出典:第8回介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会に関する資料(厚生労働省)

選択制の対象となる商品はどれにするの?
選択制はどんな利用者を対象とするの?
販売にしたら売り切りになるの?売った後のメンテナンスやモニタリングはどうするの?

といったところでしょうか。
これらの点について、あり方検討会の議論の様子を追っていきたいと思います。

ポイント2:対象となる福祉用具はいったい何!?

(1)選択制の対象とする種目・種類

ということですが、議論の焦点は「買った方が安くなる利用者がどれくらいいるのか?」という話をされているようです。

商品種目ごとに「利用者負担額における分岐月数」(≒借りるのが安いか買うのが安いかトントンになる月数)を出して、その分岐月数を超える利用者が全体のうちどの程度存在するかを見ています。
主な商品種目と、購入により自己負担が減ると考えられる利用者の割合をピックアップしてみていくと、

固定用スロープ 39.9%
歩行器39.1%
多点杖52.7%
床置き式起き上がり用手すり30.7%

多点杖は半数以上の利用者が「買った方が負担が軽くなる」となり、歩行器やスロープは4割くらい、たちあっぷのような置き型手すりは3割程度となっています。

こうしたデータ検証を経て、選択制の対象とする種目・種類についての「対応の方向性案」は以下のようにまとめられています。

(以下引用)
○「固定用スロープ」「歩行器」「単点杖」「腋窩支持クラッチ(松葉杖)」「多点杖」については、利用者負担額における分岐月数よりも平均の貸与月数が長い若しくは同等であり、購入した方が自己負担が廉価となるケースが比較的多いと考えられること等から、貸与と販売の選択制の対象とすることが考えられるのではないか。
出典:第8回介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会に関する資料(厚生労働省)

これまでの議論からかなり踏み込んで貸与と販売の選択制についての商品種目が明確に提示された格好となっています。
特にこの商品種目に「歩行器」が入ってきたのは、これまでとの大きな変化ではないかと思います。

※ちなみにこの種目では「歩行器」と「歩行車」は区別されていることを付記しておきます。

どの種目・種類が選択制の対象となるのか、この議論の行方から目が離せませんね。

ポイント3:対象者やモニタリングはどうなるの?

(2)選択制の対象者の判断と判断体制・プロセス

選択制はどんな利用者を対象とするの?という点について、次のような分析と議論がなされています。

▶疾患・疾病別の選定福祉用具
対象となる福祉用具で疾患・疾病による特徴はあるかどうか。
⇒「認知症」「脳血管疾患」がやや多い傾向か。

▶介護が必要になった主な原因
福祉用具の短期利用者と長期利用者で介護が必要になった原因で特徴はあるか?
⇒長期利用者は「骨折・転倒」「加齢による」が多い傾向。

▶介護度と利用期間の傾向
長期利用している利用者の介護度にはどんな特徴があるか。
⇒分岐月数を超えた長期利用者は介護度が低い軽度者が多い傾向。

▶状態の安定度と利用期間の傾向
長期利用している利用者の状態は安定しているか、不安定か?
⇒長期利用者は状態が安定している利用者が多い傾向。

主な分析は上記となりますが、こうした議論の結果として、次のようにまとめられています。

(以下引用)
〇福祉用具貸与の利用者における「介護が必要になった原因」は様々であり、また、過去のデータから長期利用者に関する一定の傾向は確認できるものの、一律に対象者を限定することは困難であることから、選択制の対象者を限定しないこととしてはどうか。
出典:第8回介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会に関する資料(厚生労働省)

選択制の対象者は限定しない方向で議論が進んでいるようです。

(3)貸与又は販売後のモニタリングやメンテナンス等のあり方

これについてはまとめ部分について、販売後の確認やメンテナンスのあり方の対応の方向性案として以下のように記載されています。

(以下引用)
〇選択制対象の福祉用具を販売した場合、福祉用具専門相談員は、以下を実施することとしてはどうか。
•福祉用具サービス計画における目標の達成状況を確認するものとする。
•用具の保証期間を超えた場合であっても、利用者等からの要請に応じて、販売した福祉用具の使用状況を確認し、必要な場合は、使用方法の指導、修理等(メンテナンス)を行うよう努めるものとする。
•利用者に対し商品不具合時の連絡先を情報提供するものとする。

販売した商品に対してのモニタリング/メンテナンスとして、サービス計画通りにいけてますか?保証期間を超えていても使用方法や修理メンテナンスをするようにしようね、不具合の際はどこに言ったらいいのかは明確にしておこう!
そんな感じでしょうか。

販売してしまった廉価な商品のモニタリングやメンテナンスをどこまでやるか、ここはまだ詰めていく必要がある感じかなと思います。

さて、ここまで福祉用具の貸与と販売の選択制についての議論をトレースしてまいりました。
昨年までの議論の様子からガラっと変わり、対象の種目・種類が広くなったこと、選択制の議論が本格的に進んでいることが大きな変化かと思います。

選択制が2024年度改正でどこまで入ってくるのか、次の2027年度改正まで引き続き議論されるようになっていくのか、
そのあたりは社会保障審議会であり、あり方検討会の議論の行方から目が離せない状況となってまいりました。

このコラムでも、このトピックについては定期的に取り上げてまいりたいと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ ビジネスモデル解説動画
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★住宅改修×福祉用具 セット提案モデルをわかりやすく解説
福祉用具レンタル業 なぜセット提案モデルは業績が上がるのか?

ビジネスモデル解説ムービーはコチラから!
https://youtu.be/-_8JNMWxZEw

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ ビジネスモデル研究会情報
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★福祉用具レンタル事業者向け
「福祉用具&リフォーム経営研究会」

福祉用具レンタルと住宅改修をセットで提案することで、
業界3倍の獲得数を実現するビジネスモデル。
全国の会員企業で成功事例が続出中!

詳しくはコチラ↓
https://lpsec.funaisoken.co.jp/study/fukushiyougu/027871

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 過去のメルマガバックナンバー
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

何回読んでも、ためになる。
経営に迷った時の指標になる。

過去の成功事例バックナンバーはコチラ。
http://www.funaisoken.co.jp/site/column/column_mailmag1332.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 執筆者紹介
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 
株式会社 船井総合研究所
リフォーム支援部
チーフ経営コンサルタント
入江 貴司

【プロフィール】
シニア向けビジネスの立ち上げを専門に手がけるなかで、福祉用具レンタルと
シニアリフォームを掛け合わせた「セット提案モデル」を開発し業界に対する
専門コンサルティングを進める。
商圏内一番事業所に向けた戦略づくり、マーケティング・営業支援、組織体制
づくりなど業界企業のビジネスモデル化を強力に推進する。

⇒ 入江 貴司 への経営相談は、コチラまで
E-Mail:takashi_irie@funaisoken.co.jp

この記事を書いたコンサルタント
入江 貴司
入江 貴司
入江 貴司

1976年大阪府生まれ。
大阪大学経済学部卒業後、大手工作機械メーカーに入社。
シニア向けビジネスの立ち上げを専門に手がけるなかで、福祉用具レンタルとシニアリフォームを掛け合わせた「セット提案モデル」を開発し業界に対する専門コンサルティングを進める。商圏内一番事業所に向けた戦略づくり、マーケティング・営業支援、組織体制づくりなど業界企業のビジネスモデル化を強力に推進する。

page top